なんと、昨日の記事で50記事だったみたいなんです!
昨日書き終えて公開した直後にその事実を知って、慌てて付け足したわけです。ただ、いまいちお祝いした感じがなかったので、今日は改めてお祝いしたいなぁ~ってことで、こういうタイトルにしました。何かに特化したブログではない雑記ブログなので、何を書いてもいいというのは良いですね。自由に、日記気分で書けます。まぁ、私自身は日記続けて書くことが苦手で、小学生のときなんか三日坊主の常連でした。そんな私が50記事…50日連続で書き続けることができるとは……信じがたい成果ですね。
で、今回は小説を書いて公開したいと思います。文章量的にはショートショートと呼ばれるジャンルです。面白いと思っていただければ何よりです。では、早速―――
『雨上がりのなき声』
「君はどうしてこんなところにいるの?」
雨上がりの放課後、私は新調した傘を杖代わりにして歩いていた。梅雨入り前に購入した傘で、今日がそのデビュー戦であった。コンクリートの道に溜まった雨水が靴に浸み、学校に着いたときには靴下が悲惨な状態。傘が守ってくれたので髪は濡れなかったが、膝から下は守ってくれなかった。父親の好きな野球で例えるなら、9回表に失点して同点に追いつかれた新守護神といったところだろうか?
念のために言っておくが、私は野球部ではない。ソフトボール部でもない。好きな人が野球部というわけでもない。チャイムと同時に自宅を目指す、ただの帰宅部である。そんな私の帰路の途中、じーっとしているアマガエルと目が合った。気にせずに通り過ぎてもよかったのだが、あまりにも情熱的な視線だったので、つい私のほうから話しかけてしまった。
「私に一目惚れしちゃった?」
無言の彼に、私は悪戯っぽく聞いてみた。だが、返事はない。無口な奴だ。自分で言うのもどうかと思うが、私の見て呉れは悪くない。母親の血が優秀なのだろう。自慢になるが、告白されることなんてざらにある。私がお願いすれば、断る男子はまずいない。しかしながら、色恋沙汰に興味がないので付き合ったことはない。だから女子受けも良いのだろう。女子は意中の相手にモーションをかける者を、親の仇の如く嫌う習性がある。私はモテるが女子の味方なので、今のところは虐められていない。だが、警戒するに越したことはない。私がこのように接することができる相手は、彼ぐらいだろう。
「何も言わないなら、もう行っちゃうよ?」
そう言うと、彼は「ゲコッ」と鳴いた。私は面食らってしまった。人間の言葉がわかるのだろうか?私には彼の言葉を理解することができないが、もしかしたら私の言葉は理解してもらえるのかもしれない。証明することができないので、そんなことはありえないと言えない。私は少しだけドキドキした。
「私と喋りたい?」
「………」
「偶々鳴いただけ?」
「………」
「おーい。無視ですかー?」
彼と目線を合わせて聞いてみたが、うんともすんとも言わない。「ゲコ」とも言わない。もういいやと思い、私は腰を上げて帰ろうとした。だが、困ってしまった。「バイバイ」は好きじゃない。もう会えないような気がするので、意識し使わないようにしている。「またね」という相手でもない。言ってしまうと、まるで私が再会を望んでいるみたいだ。どうしよう。何を言って別れればいいのだろうか?暫く悩んだ後に、私は「……明日は雨ですか?」と切り出した。理由はない。天気は初対面でも話やすりテーマなので、無意識に天気に関連した言葉になったのかもしれない。
言ってみたものの、返事は期待していなかった。独り言で終わりだと思っていた。しかし、彼は「ゲコッ」と鳴いた。この瞬間、私は一つの可能性に気づいた。
「雨は好き?」
「ゲコッ」
「いつもここにいるの?」
「………」
「雨が降ったときだけ、ここにいるの?」
「ゲコッ」
「わかった!ハイのときだけ、鳴くんでしょ!」
「ゲコッ」
私の予想どおり、彼は人間の言葉を理解している。そして、“ハイ”ならば鳴いて、“イイエ”ならば鳴かないことで、意思表示をしていたのだ。このことを私だけが知っていると思うと、自然と頬が緩んでしまった。鏡で自分の顔を見たら、きっとニヤニヤしているに違いない。でも、きっと可愛いだろう。
「またね!」
私はそう言って、足早に自宅を目指した。手洗いと嗽(うがい)を済ませて自室に入り、未使用のノートを机に広げた。今日という日を記念にして、私と彼の思い出を記録することにしたのだ。表紙には何も書いていない。いつまで続くかわからないからだ。梅雨が明ければ別れが来るかもしれないが、それはそれで構わない。時間は短くても、色褪せることがないようにしたい。恋する乙女の心情とは、このようなものだろうか?そんなことを考えていた。
翌朝、私の期待を雨音が肯定した。窓の外では雨が線になって降っている。もうドキドキが止まらない。母親は私がいつもと違うことに気づいたようで、「やっと付き合う気になった?」と聞いてきた。私が「違うよ。何で?」と答えると、「ふーん。まぁ、初めてだからって浮かれ過ぎないようにね」と釘を刺された。否定してもよかったが、説明するのも面倒なので私は適当に「はーい」と返事した。
登校はあえて違う道を通った。寝る前に考えていたのは放課後のことだったので、もし登校中にあったらどうしようと思ったのだ。会うことを楽しみにしているのに、会うとなると変な緊張感がある。この何とも言えないモヤモヤした感情と向き合っていると、あっという間に放課後になっていた。授業の内容なんて覚えていない。私は帰宅部の名に恥じないスピードで、傘置き場から自分の傘を抜き取った。今日は昨日と違って雨が降っている。傘を差して、あの場所へと向かった。足下から浸みてきているが、そんなものは気にならない。“ハイ”と“イイエ”しか答えない彼と話すことを楽しみに、一晩待ったのだ。私は足を止め、あたりを見まわした。まだ彼の姿は見えない。
「おーい。来たよー。いるー?」
返事はない。傘に当たる雨音が邪魔だ。聞き逃してしまうかもしれない。私は目を閉じて、耳を凝らした。だが、鳴き声は聞こえない。聞こえるのは雨音だけ。暫くすると声が聞こえてきたが、それは部活帰りの生徒たちが話している声。いつの間にか、数時間も経っていたのだ。
この日、彼は現れなかった。
「ただいま」
「どうしたの?びしょ濡れじゃない?傘は?持っていったでしょ?」
傘を差さずに帰ってきた私は、文句なしに全身濡れていた。母親に促されてお風呂に入ることなったが、一向に温まる気がしなかった。
「フラれた?」
「そんなんじゃない」
「鏡見たら?酷い顔してるから」
「大丈夫。それより、傘失くしちゃった。ごめんなさい」
「学校で借りてきたらよかったのに。彼氏の家でしょ」
「違う。本当に違うから。あんまりしつこいと怒るよ」
あながち間違いではないのが恥ずかしかった。傘は置いてきたのだ。私が来た証明として。きっと何か理由があったのだろう。だから、来ることができなかったのだ。そう思わないと、また目を腫らしてしまいそうだった。
母親の淹れてくれたホットココアを飲み終えた私は、「疲れたから寝るね」と言って自室に入った。ベッドに倒れ込むと一気に疲れが出てきた。枕の横には1ページ目だけ書かれている記録ノートがある。改めて読んでみると、「何も言わないなら、もう行っちゃうよ?」に対して彼は「ゲコッ」と鳴いていた。これが“ハイ”という意味なら、彼は私を呼び止めたわけではない。恋は盲目。私は枕が少し冷たくなるのを感じながら、眠りについた。
目が覚めると、雨はすっかり上がっていた。時刻は夜の九時。私が熟睡していたということで、両親は既に夕食を終えていた。母親に夕食を温めてもらい無言で食べていると、「彼氏、来てたみたいよ」と言われた。
「だから、彼氏なんていないって!」
「本当に違うの?別に誰でもいいけどさ。傘届けてくれたみたいだから、お礼は言っときなさいよ」
「傘?なんの?」
「なんのって……失くしたって言ってた傘よ。寝ぼけてるの?」
「傘……傘!?」
何を言っているのか理解できなかった。慌てて見に行った玄関に私の傘があったので、更に理解できなくなった。「届けてくれたんだ……」そう呟く私に、母親は「誰が届けてくれたかわかったの?」と尋ねてきた。
「彼氏……かも」
「やっぱりね。隠しても無駄よ、母親は娘の恋路に敏感なの」
母親は勝ち誇ったように、リビングへと戻っていった。私も、勝ち誇ったように傘を抱いた。
以上です。時期外れなんですが、雨が頭から離れなかったのでこういうお話を書いてみました。また機会があれば書いてみたいと思います。では、今日はこのへんで!
コメント